東京地方裁判所 平成11年(ワ)14368号・平11年(ワ)18899号 判決
主文
一 本訴原告(反訴被告)と本訴被告(反訴原告)間の別紙連帯根保証(限度付根保証)目録記載の連帯根保証債務は、金三〇〇万円を超えて存在しないことを確認する。
二 本訴被告(反訴原告)は、本訴原告(反訴被告)に対し、別紙物件目録記載の建物について、別紙登記目録記載の登記の抹消登記手続をせよ。
三 本訴原告(反訴被告)は本訴被告(反訴原告)に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成一一年八月二八日から支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。
四 本訴被告(反訴原告)の反訴に関するその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを三分し、その二を本訴被告(反訴原告)の負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。
六 この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。
(略称)以下においては、本訴原告・反訴被告を「原告」と、本訴被告・反訴原告を「被告」と略称する。
事実及び理由
第一請求
一 本訴請求
主文第一項、第二項と同旨
二 反訴請求
原告は、被告に対し、一七七二万五〇〇〇円及び平成一一年八月二八日から支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。
第二事案の概要
(本訴)
本訴請求は、被告が、平成一一年三月二九日、原告が被告との間で株式会社ナンバーガク(以下「ナンバーガク」という。)が被告に対して負担する手形貸付、証書貸付、債務保証、その他一切の取引に関連した債務等の取引によって現在および将来負担する一切の債務(以下「本件主債務」という。)について保証限度額三〇〇〇万円とする連帯根保証契約(限度付根保証)(以下「本件連帯根保証契約」という。)を締結し、同日、原告と被告間において原告所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について極度額を三〇〇〇万円とする根抵当権設定契約(以下「本件根抵当権設定契約」という。)に基づき被告がなした別紙登記目録記載の根抵当権設定仮登記(以下「本件根抵当権設定仮登記」という。)について、本件連帯根保証契約は三〇〇万円を限度とする趣旨であったこと及び本件根抵当権設定契約を締結したことはないとして、本件連帯根保証契約は、三〇〇万円を超えては存在しないこと、本件根抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求めたものである。
(反訴)
反訴請求は、被告は、原告との間において、本件主債務を担保するために本件連帯根保証契約を締結し、本件主債務の残金が一七七二万五〇〇〇円であるとして、原告に対し、本件連帯根保証契約に基づき右残金とこれに対する約定金利相当の年一五パーセントの割合による遅延損害金の請求をしたものである。
一 争いのない事実等
1 原告は、本件建物を所有している。
2 被告は、本件建物について別紙登記目録記載の本件根抵当権設定仮登記を経由している。
3 被告は、原告との間で、本件連帯根保証契約及び本件根抵当権設定契約を締結した旨主張している。
4 被告とナンバーガクとの間において、平成一一月三月二九日、要旨次のような内容の本件主債務を締結した(乙2の1・但し原告作成部分を除く)。
(一) 取引の内容 手形貸付、手形割引、証書貸付、債務保証、その他一切の取引に関連して生じた債務等
(二) 遅延損害金 年四〇・〇〇四パーセント
(三) 期限の利益喪失条項 主債務者が債務の一部でも履行を怠ったときは当然に期限の利益を失う。
5 原告はナンバーガクに対し、平成一一年三月三〇日、三〇〇万円、同年四月三〇日一六〇〇万円及び同年六月二日四七五万五〇〇〇円を貸し渡し、同年五月三一日ナンバーガクは、被告に対し六〇〇万円を返済した(乙4ないし九)。
二 争点
1 原告と被告間において、本件連帯根保証契約を締結した際、保証限度を三〇〇〇万円としたか否か。
(原告の主張)
原告は、ナンバーガクの代表取締役である柳澤友彦(以下「柳澤」という。)から三〇〇万円について連帯保証人になってくれるよう依頼されたため、これを承諾し、平成一一年三月二九日に、柳澤とともに被告事務所に行き保証承諾書(限度付根保証)(乙1)等の各種書類に署名、捺印したが、いずれも被告側から保証限度を三〇〇〇万円とする話は一切なく、その記載もなかったのであって、柳澤から依頼された三〇〇万円を限度とするものであった。また、実際原告は、同日、ナンバーガク振出の額面各一〇〇万円の3通の手形に裏書をしたものであって、本件連帯根保証契約は三〇〇万円を限度とするものである。
(被告の主張)
被告は、原告と本件連帯根保証契約を締結したが、その際、被告担当者鴛海章仁(以下「鴛海」という。)は、例えば保証承諾書(限度付根保証)(乙1)について、原告に署名、捺印をしてもらう際、すでに鴛海が、保証限度を三〇〇〇万円とする旨の記載をして、その趣旨を説明したものであって、保証限度額について白紙であったことはない。
2 本件根抵当権設定契約は締結されたか否か。
(原告の主張)
原告は、平成一一年三月二九日、根抵当権設定契約証書(乙3の1・2)の連帯保証人欄に署名・押印したが、その際、同書面の極度額欄についてはなんら記載がなく、物件の表示についても記載がなく、被告側からなんの説明もなかったものであり、極度額については、三〇〇万との認識であったとしても、物件の特定はされていなかったものであるから、被告主張の本件根抵当権設定契約の表示行為はなされたとはいえないものである。
(被告の主張)
被告担当者鴛海は、原告に対し、本件根抵当権設定契約の際、その趣旨については説明したものであるし、根抵当権設定契約証書(乙3の1・2)について原告の署名、押印を貰う際、極度額欄には三〇〇〇万円の記載を鴛海が予め記載したものを示しているのであって、本件根抵当権設定契約は問題なく締結されたものである。
第三争点に対する判断
一 争点1(原告と被告間において、本件連帯根保証契約を締結した際、根保証限度を三〇〇〇万円としたか否か)について
1 乙第一(保証承諾書(限度付根保証))、第三の一、二(根抵当権設定契約証書)号証の各原告の氏名については、原告の自署によるものであることについては当事者間に争いがないから、反証のない限り被告作成部分について真正に成立したものと推定されるところ、前記第二、一の争いのない事実等、証拠(甲27、乙4ないし10、証人鴛海章仁、原告本人、被告代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認定することができ、乙9、10、証人鴛海章仁、被告代表者本人尋問の結果中の右認定に反する部分は採用しない。
(一) 原告は、コンピューターソフトの開発を目的とする日本商工産業株式会社の代表取締役であるが、ナンバーガクの代表取締役である柳澤と平成一〇年秋ころ友人の渡辺大助の紹介で知り合った。
(二) 原告は、平成一一年三月二三日ころ、柳澤からナンバーガクが株式会社商工ファンド(以下「商工ファンド」という。)から一〇〇〇万円の融資を受けるについて保証人になることを依頼された。柳澤は、他に同人の兄、友人の医者が保証人となるので安心されたい旨述べていたので、原告は柳澤からの依頼を承諾し、同月二六日午後三時ころ、柳澤とともに東京都中央区日本橋室町にある商工ファンドの事務所に赴き、保証金額一〇〇〇万円を限度として、ナンバーガクの保証人となった。なお、その際、原告は、保証限度額一〇〇〇万円については自ら当該書面に記入したが、ナンバーガクがその際融資を受けた実際の金額については知らなかった。
(三) 原告は、柳澤とともに商工ファンドへ行った帰りに、柳澤から「商工ファンドからの借り入れだけでは、どうしても三〇〇万円が足りない。自分の昔からの友人が金融業をやっている。話は付いているので、保証人になって欲しい。友人だから心配ないから」と言われ、さらにナンバーガクが融資を受けるについても保証人になってくれとの依頼があった。
原告は、右依頼についても承諾し、同月二九日の朝、印鑑証明二通を取ったうえで、同日午前一〇時に柳澤と渋谷の待ち合わせをしていた渋谷のバスターミナルへ行った。原告は、渋谷で柳澤運転の車に同乗し、被告の港区芝にある事務所に赴いた。
(四) 原告は柳澤とともに、同日午前一一時ころ、前記被告事務所に到着し、被告側は営業担当の鴛海が対応した。原告は、被告事務所において、乙第一号証(保証承諾書(限度付根保証))に原告の住所、氏名を自署し、実印を押印した。なお、その際、乙第一号証(保証承諾書(限度付根保証))は、その不動文字以外に、上の欄の作成日付の記載はなく、下の欄の太枠に囲まれた主たる事務所の住所、商号等欄、根保証の範囲欄について保証限度額、保証期間についての記載もない状態であった。
乙第二の一、二号証(取引約定書)の連帯保証人欄にも原告の住所、氏名を自署し、実印を押印した。また、乙第三号証(根抵当権設定契約証書)の、連帯保証人兼担保権設定者欄に原告の住所、氏名を自署し、実印を押印したが、第一条の極度額欄の漢数字三〇〇〇万円の記載はなく、物件の表示欄に物件の表示もなく、司法書士の氏名の記載もない状態であった。さらに、原告は、甲第二号証(債務保証契約証書)、第三号証(返済明細表)、第四号証(金銭消費貸借契約証書)、第五号証(返済明細表)、第六号証(委任状)、第七号証(返済明細表)、第八号証(委任状)、第九号証(返済明細表)、第二四号証(委任状)の各書証中の原告の住所、氏名あるいは氏名のみ記載されているもの、その印は、原告が自署し、実印を押印したものであるが各書証中の不動文字以外に記載されているものは、原告が署名等した当時その旨の記載は一切なかったし、作成日付が平成一一年六月二日付になっている書証(甲2、4、6、8)については、右の日に原告は、被告事務所に行ったことはない。
(五) ナンバーガクは、被告との間において、平成一一年三月二九日、要旨次のような内容の本件主債務を締結した。
(1) 取引の内容 手形貸付、手形割引、証書貸付、債務保証、その他一切の取引に関連して生じた債務等
(2) 遅延損害金 年四〇・〇〇四パーセント
(3) 期限の利益喪失条項 主債務者が債務の一部でも履行を怠ったときは当然に期限の利益を失う
(六) 原告はナンバーガクに対し、平成一一年三月三〇日、三〇〇万円、同年四月三〇日一六〇〇万円及び同年六月二日四七五万五〇〇〇円を貸し渡し、同年五月三一日ナンバーガクは、被告に対し六〇〇万円を返済したが、原告は、最初の三〇〇万円以外にナンバーガクに対し被告から融資されたことは知らない。また、平成一一年三月二九日には、柳澤がその振出しにかかる手形を持参していなかったため、原告が裏書をすることを条件に、被告はナンバーガクに対し三〇〇万円を融資することとし、原告は額面一〇〇万円の手形三通に裏書したが、それ以降被告から手形に署名を要求されたことはなかった。
2 平成一一年三月二九日における被告事務所での柳澤と原告及び鴛海とのやりとりについて、証人鴛海はその証言中において、原告に対し、たとえば乙第一号証(保証承諾書(限度付根保証))の保証限度額、保証期間については、鴛海が予め保証限度額について算用数字で三〇〇〇万円、保証期間について平成一一年三月二九日から平成一三年三月二八日と記載し、当日(同月二九日)も原告にその旨説明している旨供述し、被告代表者本人尋問結果中においても、従来から事前に契約内容について説明するように指導している旨の供述をするが、鴛海が原告に説明した内容については具体性を欠くばかりか、乙第二号証の一、二(取引約定書)には、取引の額全体については記載がなく、原告は、商工ファンドについては一〇〇〇万円の保証限度額をみずから記載しており、本件主債務については柳澤から三〇〇万円について保証の依頼があったからその依頼を承諾したものであって、三〇〇〇万円の保証であったのであれば、それを拒絶したことは予測に難くないこと、原告は、三〇〇万円については手形等に署名しているがそれ以降ナンバーガクに対する融資については手形等に裏書などすることは求められていない(この点証人鴛海は、その後の融資について原告に手形に裏書を求めなかった理由は特にないとするが、その説明は合理的ではない)ことなどの事情に照らすと前記鴛海、被告代表者本人の各供述は直ちには採用できない。
そうすると、鴛海が、平成一一年三月二九日に原告に対し、本件主債務について保証の限度額を三〇〇〇万円と説明し、また、前記乙第一号証等の書類で三〇〇〇万円との記載があったと認めることはできないものである。
3 以上前記認定事実、検討した結果によれば、乙第一号証(保証承諾書(限度付根保証))、乙第三号証の一、二(根抵当権設定契約証書)の各原告作成部分については成立の真正を推定することはできず、他に本件主債務について保証の限度額が三〇〇〇万円であったことを認めるに足りる証拠はなく、原告本件連帯根保証契約を締結した際の保証限度額は三〇〇万円とするのが相当であり、この点の被告の主張は理由がない。
二 争点2(本件根抵当権設定契約は締結されたか否か。)
1 前記争点1で認定した事実、検討結果によれば、原告と被告との間の本件連帯根保証契約締結の際、原告は、乙第三号証の一、二(根抵当権設定契約証書)の住所、連帯保証人兼担保権設定者欄の原告の住所、氏名について自署し、実印を押印したことは認められるが、右書証の第一条の漢数字三〇〇〇万円の記載はなく、物件の表示欄における物件の表示もなく、司法書士の氏名等の記載もなかったことが認められる。
被告は、この点につき、被告営業担当の鴛海は、根抵当権設定の内容について説明した旨主張し、前記証人鴛海の証言中にはそれに沿う旨の供述も存在するが、右証言中の供述も「何かあった場合は設定しますよ」との程度で抽象的なものであって、それ自体で説明したとは到底いえないばかりか、右認定のとおり、物件の特定もなされていず、実際に被告が、原告所有の本件建物について根抵当権設定仮登記をした際にも原告には何ら連絡をしなかったことなどの事情を総合考慮すると、鴛海が説明したとすることはできない。
2 以上によれば、本件根抵当権設定契約は、その内容は特定しているとは言えないし、原告は将来、原告所有の本件建物について根抵当権を設定されることについて承諾していた事情も認められない本件においては、原告の表示行為はその内容が確定されていたとはいえないものであって、本件根抵当権設定契約は締結されていたとはいえないと解するのが相当である。
三 結論
そうすると、原告の本訴請求は、理由があるから認容し、被告の反訴請求については、本件連帯根保証債務は三〇〇万円の限度で理由があることになるから一部認容し、その余は理由がないから棄却することとして主文のとおり判決する。
(裁判官 浦木厚利)
登記目録
横浜地方法務局麻生出張所平成一一年六月三日受付第三二一五五号中川浩持分根抵当権設定仮登記
原因 平成一一年三月二九日設定
極度額 金三〇〇〇万円
債権の範囲 金銭消費貸借取引 手形債権 小切手債権 手形割引取引 保証取引 保証委託取引
債務者 東京都新宿区愛住町二三番地 株式会社ナンバーガク
権利者 東京都港区芝一丁目一三番一六号 サンエンタープライズ株式会社
連帯根保証(限度付根保証)目録
株式会社ナンバーガクと被告との間の平成一一年三月二九日付取引約定書記載の取引に基づく、株式会社ナンバーガクの被告に対する債務について、同日被告と原告との間に締結された連帯根保証(限度付根保証)契約に基づく原告の被告に対する連帯根保証(限度付根保証)債務
物件目録
所在 川崎市高津区溝口五丁目壱壱七弐番地壱九
家屋番号 壱壱七弐番壱九
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根参階建
床面積 壱階 四六・五八平方メートル
弐階 四六・五八平方メートル
参階 参八・参〇平方メートル
中川浩持分壱〇分の参